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東京地方裁判所 昭和53年(特わ)1317号 判決

主文

被告会社X印刷加工株式会社を罰金二、二〇〇万円に、

被告人Aを懲役一年六月に

それぞれ処する。

被告人Aに対し、この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都足立区に本店を置き紙製玩具の製造及び販売を営業目的とする資本金九六〇万円(昭和五〇年九月一〇日以前の資本金は二四〇万円)の株式会社であり、被告人Aは、被告会社の専務取締役として同会社の業務全般を統轄しているものであるが、被告人Aは、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部除外及び架空費用の計上などをして簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四九年七月一日から同五〇年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三八〇、三三四、八六四円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたのにかかわらず、同五〇年八月二八日、東京都足立区所轄税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二五五、一七八、八五五円でこれに対する法人税額が一〇〇、五九〇、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により右被告会社の右事業年度の正規の法人税額一五〇、六五二、二〇〇円(別紙(四)の一税額計算書参照)と右申告税額との差額五〇、〇六一、四〇〇円を免れ

第二  〈省略〉

第三  〈省略〉

(証拠の標目) 〈省略〉

(減価償却費についての当裁判所の判断)

検察官は、被告会社が昭和五〇年六月期において損金計上した修繕費六〇〇万円につき、これは工場等の床をコンクリートでかさ上げ改造した工事費代金一、七〇〇万円の一部であつて、残額一、一〇〇万円は簿外で支出したものであり、従つて、費用(修繕費)ではなく資本的支出と認められるので、被告会社において損金経理した右六〇〇万円についてのみ減価償却費を認容することとし、耐用年数一五年償却率(定率法)〇、一四二を適用し、事業の用に供した年月は昭和五〇年六月であるところから、昭和五〇年六月期につき、減価償却費七一、〇〇〇円、昭和五一年六月期につき前期繰越償却超過額八四一、九一八円(6,000,000円−71,000=5,929,000円,5,929,000円×0.142=841,918円)、昭和五二年六月期につき前期繰越償却超過額七二二、三六五円(5,929,000円−841,918円=5,087,082=5,087,082円×0.142=722,365円)を認めた旨主張する。

この点につき、被告人は収税官吏に対し「公表上六百万円を修繕費としましたが、構築物の舗装路面として資産に計上すべきでありますので五〇年六月期から減価償却費を認めていただきたいと思います。裏にて支払つた一千百万円は五二年一一月一五日付上申書「簿外支払金額の明細について」に記載したとおり、構築物の舗装路面として公表に計上した六百万円と同一の工事ですから資産として処理していただきます」と申立てている(収税官吏の被告人に対する質問てん末書)。また、被告人は当公判廷において、右六〇〇万円のみを修繕費として公表に計上したことにつき、資本を圧迫してはいけないと思つて、このような処理をした。資本的支出とか構築物とか税務経理上のことはよくわからないが、六〇〇万円を費用として引いて貰いたいと思つて計上した旨供述している。

しかして、報告書、上申書、Sの検察官に対する供述調書、前掲収税官吏の被告人に対する質問てん末書、及び被告人の当公判廷における供述によれば、本件工事内容は、被告会社の工場内床面に水気が浸入するのを防止するため、工場内の床に土砂約三五センチメートルを入れ、その上から約一〇センチメートルに及ぶ工場全体の床を、工場外側防水コンクリート枠の高さ(約四五センチメートル)までかさ上げをしたものであることが認められる。従つて、本件工事によつて造成された右工場の床部分は、事業の用に供する工場建物に附属する一部として法人税法上は減価償却資産に該当する(法人税法施行令一三条、一三二条二号)。

そこで、右の税法上の処理は資本的支出として、右工場用建物につき法定の減価償却費分を損金に算入することになる。

ところで、本件は前掲各証拠によれば、工場建物の床上侵水の防止のために要した金額一、七〇〇万円のうち、一、一〇〇万円を簿外支出により、六〇〇万円を公表決算により修繕費として損金計上したことが認められるが、それは換言すれば、一、七〇〇万円の減価償却資産が一体の工事であるところから、当該資産の一部について損金経理をしたものということができる。

それは、まさに法人税法第三一条第一項の規定による「償却費として損金経理をした金額」にあたるものというべきである。けだし、ある支出が修繕費となるか資本的支出となるかは法条によつて定まつており、勘定科目の記載の仕方如何によつて定まるものではないから、同条の適用につき、必ずしも「償却費」という名目のみによつて損金経理をした場合に限ると解すべきではない。そして、当該資産が一体の工事によつて取得され、六〇〇万円の外に一、一〇〇万円の資産が別個独立に存在しないような場合には、当該資産の一部につき、費用として損金経理をしたものとみることができるからである。

また本件の修繕費なるものは、工場建物の基礎の床部分をかさ上げするために費用を投じた金額の一部であるから、その金額は工場建物の取得価額とすべきものである。

なお、検察官は被告会社が六〇〇万円を修繕費として公表計上したことから、右公表帳簿に計上した金額のみにつき減価償却費を認めるとの前提に立つて、右金額に見合う構築物が存在するものとして減価償却費を計算しているが、叙上認定のように、本件六〇〇万円の費用額は工場建物の一部を構成するものであつて、右工場建物と別個に独立に存在するものではなく、計算上の数額にすぎないから、検察官の主張する六〇〇万円に対する減価償却資産は認めることができない。

そこで本件については、一、七〇〇万円の減価償却資産に対し法定の減価償却費を認めるのが相当である。

償却限度額の計算については、償却率につき、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号)別表第一の工場用建物に係る「一五年」の定率法による償却法による償却率〇、一四二(耐用年数省令別表第一〇)を適用し、昭和五〇年六月期につき二〇一、一六六円、五一年六月期につき二、三八五、四三四円((17,000,000円−201,166円×0.142)、五二年六月期につき二、〇四六、七〇二円((17,000,000円−201,166円−2,385,433円)×0.142)となる。

従つて、本件減価償却額については、昭和五〇年六月期につき、検察官の認めた償却額を超えた一三〇、一六六円(20,116円−71,000円)昭和五一年六月期につき、同じく一、五四三、五一六円(2,385,434円−841,918円)、昭和五二年六月期につき一、三二四、三三七円(2,046,702円−722,365円)の各金額を認め、本件逋脱所得金額については、右各金額を損金として控除した残額についてのみ認める。

(法令の適用)

被告会社につき

いずれも法人税法一五九条、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項

被告人につき

いずれも法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)。

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)。同法二五条一項。

よつて、主文のとおり判決する。

(松澤智)

別紙(一)〜(四) 〈省略〉

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